入院中の牧野老人を、看護師の吉川天音は気遣っていた。
孫娘が見舞いに来るが、老人が転んでも手を貸そうともしないと、腹を立てている。
ある日、天音が検温のために病室を訪れたとき、床に原稿が落ちた、
老人は、かつて映画の助監督をしていて、そのときに書いた原稿だという。
それは、映画にはならなかった。
上司に叱られて仕事をサボりたい天音は、老人に原稿の話をしてもらった。
昭和35年。
牧野健司は、映画撮影所で助監督として忙しく働いていた。
頑張る分だけ、失敗もする。
彼は、近所の「ロマンス劇場」に出かけ、終演後に一人、フィルムを上映させてもらっていた。
彼のお気に入りは、「お転婆姫と三獣士」だ。
廃盤になって埃をかぶっていたのを、彼が見つけ出したのだ。
その日の夜も、一人でその作品を観ていた。
停電した。
灯がつくと、主人公のお転婆姫・美雪が現れた。
モノクロ作品から飛び出してきた美雪に、色は無い。
そして、映画の役柄そのままの、横柄で高飛車、我儘なキャラクターだ。
健司が触ろうとすると、殴られた。
美雪は姫であり、健司は下僕だ。
美雪に命じらるまま、健司は彼女を撮影所に連れて行った。
美雪はメイクして、この世界の人間のように見えるようにした。
健司は、彼女の美しさに目を奪われた。
様々なトラブルや騒動に見舞われながら、共同生活が始まった。
この作品は、脚本がよく練られたラブコメディである。
コメディだが、しんみりさせられる。