東北、海坂藩。
磯村野江は、叔母の墓参りをした。
嫁ぎ先の姑が厳しく、なかなか命日には来られないが、毎年欠かさずに続けている。
帰り道、満開の山桜があった。
手折って持帰ろうとするが、手が届かない。
そこに1人の武士が来て、手伝ってくれた。
手塚弥一郎という武士で、彼は野江が磯村庄左衛門と再婚する前に、縁談を申し込んだことがあった。
思い出した野江は、詫びた。
弥一郎は、「今は、お幸せでござろうな。」 と問うた。
野江が「はい」 と答えると、安心した顔で去っていった。
山桜の枝を持って実家に立ち寄った野江は、弥一郎の優しさに触れて、ほのかな恋心が芽ばえていた。
野江の弟は、道場で弥一郎に剣術を仕込まれていた。
縁談を申し込んだ当時、弥一郎の野江に対する気持ちは、道場生の間でも評判だったのに、なぜことわったのかと、弟は問うた。
その当時、野江は前夫を病気で亡くして出戻っていたのだが、「剣術の使い手は怖いと思っていたから」 と答えた。
嫁ぎ先では、野江は使用人のように扱われている。
野江の父親と同じ下級武士でありながら、禄高に劣る庄左衛門は、心を開かない野江に辛く当たっていた。
藩の重臣、諏訪平右衛門は譜代の家柄であるため、他の家臣達は彼に口答えできない。
諏訪は、藩の農政を仕切って大百姓と結託し、私腹を肥やしていた。
凶作続きの農民は、新田の開墾に借り出され、食べていくのがやっとだ。
良心的な家臣の米倉だけが、諏訪のやり方に反対した。
彼は、部下に現状を訴える書状を部下に持たせ、江戸にいる殿様の元に向かわせた。
しかし、その部下は、何者かに襲われ、始末された。
弥一郎が、農地を視察した。
昼休みに弁当を食べていると、農民の娘が水を持って来てくれた。
弥一郎は娘に、にぎりめしをあげた。
農民の家では、食べる米が無かった。
天候の不順が続き、その年の収穫も少なかった。
弥一郎に水を持って来てくれた娘は、幼くして亡くなった。
弥一郎は、諏訪を斬る決意をした。
静かに物語が進行する。
退屈な作品だ。
しかし、心に残る。